夜風に吹かれて、笹の葉が揺れる。
見上げた空には見えるか見えないかの一すじの白。。
せっかくの晴れ。でも、この都会じゃあの煌めきの魅力はわからない。
ダークネスには七夕みたいなロマンチックな風習はない。
だからこそ、せめて自分の部屋には飾りたかった。
決して豪華でも何でもないけれど、飾り付けと短冊を吊した笹。
静まり返った施設の中で、ベランダの手すりに腕を載せて空を眺める。
遠い向こうでぼんやりと光るその中には、きっと「リゾナント」のある街。
間を隔てる夜の空気は、目には見えない、手を伸ばしても触れられない、
けれど高くて、壊すこともできない、乗り越えることも難しい壁のよう。
こんな想いも言葉もここでは決して口になんてできない。
それだけに欲求だけはどんどんどんどん大きくなるばかりで、
だからこそ、どうにかして夢を現実にしたいなんて思ってしまう。人間って、ワガママだ。
私は笹の葉を1枚手にとって、目を閉じて額に当てる。
思い出すのは何年も前、4人で手を取り笑い合えていたあの頃のこと。
何の疑いもなくずっと続くと思っていた日々が、ぷつりと途切れたその日のこと―――
ゆっくりと目を開いて空を見上げたら、さっきより少しだけ星が多くなった気がした。
私の頭の上から、あの街までを結ぶ星々の川の流れも、ちょっとだけ強くなったように見えた。
―――会いたいよ、ねぇ、みんな。
ありったけの願いを込めて。今なら、届くのかな。
織姫と彦星よりも遠い、私たちの距離を結ぶために。
私の手を離れた笹の葉は、風に乗って遠くへと消えていった。
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夜にお邪魔した喫茶「リゾナント」の窓辺には、笹の葉が飾られていた。
今日は、7月7日。そして、晴れ。
年に一度のロマンチックな物語に立ち会うために、
あたしはリゾナントの台所を抜けて、愛ちゃんの部屋を過ぎ、ベランダにやってきた。
ぼんやりとした家の明かりや街灯に邪魔されて、思ったよりは空が暗くない。
それでも、人よりもちょっと目のいいあたしには見える。
はっきりとじゃないけど織姫と彦星。そして、天の川。
肌を撫でる夜風が気持ちよくて、両手を一杯に広げて目を閉じた。
まるであたし一人がこの星空の下にいるような、そんな想像をふくらませながら。
ぱちりと目を開いて空を見上げると、キラリと大きく光った一つの星。
「あ、あーっ!」
あたしは慌てて目を閉じて、両手を組んで祈る。
七夕の日にあたしの前に姿を見せた流れ星。
何度も言えたかは分からないけれど、どうかあたしの願いを乗せて、落ちていった先、あの方角には確か……
天の川はあたしの頭上を越え、今は真っ暗な山の方角へとのびていた。
向こうから離れることの出来ない彼女は、ちゃんと元気でやってるのかな。
遠い遠い、埋まることのないこの距離は、いつか真っ平らな道になるのかな?
喫茶店のフロアに戻ったあたしは1枚の短冊を手にとって、そっと文字を書き並べた。
それは、あの星に託したあたしの心からの願い事。
どうか叶えて、ねぇ、お星様。
―――誰一人も傷つかないように 毎日笑っていられる世界になりますように―――