舞台はステージ前方に置かれたイスに、浩介役の男性(今回は佐々木喜英)と薫役の愛ちゃんが着席。
日記を朗読していくというカタチで話が進んでいく。
最初は何の変哲もない、二人が恋に落ちるまでのお互いの日記。
薫の日記の中にはちょこちょこと「頭が痛い」というキーワードが増えていく。
で、お互いが反発しあってるのにどこか惹かれていく中、
その頭痛が引き金になって二人は急速に近づいて――― というところで、
あぁ、この物語が始まっていくんだなぁとぼんやり感じました。
事前情報として「薫がアルツハイマーで記憶を失っていく」程度のことを仕入れていたので、
そうするときっかけとなるポイントがどこなのかなーってのは気になるもので、
それが、この頭痛だったわけです。
意識を失って倒れたところに、浩介。
この時ものすごくテンパりながらも薫を助けようとした浩介を熱演していた佐々木君。
すっごい良かった。
朗読劇っていうのは大きな身振りや手振り、お互いへのふれあいみたいなモノはほぼ皆無なので、
本当に声と表情と、ほんのわずかな身体の動きで表現されていくわけだけど、
それが非常に見事でした。いやぁ、1回目の泣きポイント。
そこから、結婚して築いた幸せな家庭の中で、
会社での仕事のミス。記憶がないこと。出社したくても、会社にたどり着けないこと。
何かが変化していく自分と認めたくない自分との葛藤に悩んでいく薫。
これをまた、愛ちゃんが熱演します。
突然感情が追いつかなくなってイライラする様を、
ものすごい声の強さで訴えかけてきます。
正直ね、のけぞっちゃうくらいの迫力。すごかった。
セリフなんて「あああああもうイライラする!」程度なんだよ?
そこに、正気じゃない何かすら込められてる感じの。
病院でのアルツハイマーという診断結果を浩介に打ち明けられないうちに、
家庭内でも少しずつそんな症状が出てきて浩介を疑心暗鬼にさせる。
そのエピソードの中で、薫の腕時計を浩介が盗んだ、というくだり。
薫が(認知症の症状で)持ち物をどこかに隠すように置いてしまい、
それが浩介の筆箱の中だった、ということで盗られたと勘違いするけど、
またそのときの怒りにまかせて怒鳴り散らすところ。
これもまた。本当に言葉としては短いのに。説得力がありました。
終盤は完全に精神崩壊しちゃってるんですけどねー
言葉遣いも幼い感じになっていくし、感情も無邪気なモノになっていくし。
「浩介」を「かずや(元彼の名前で会社の上司)」と呼び続けちゃうところとか、
ホント残酷以外のなにものでもない。
アルツハイマーの症状で消えていく記憶の中で、
最後まで残るのは「特に想いの強いこと」だそうで、
それが自分ではない男の名前で浩介はひどく傷つけられるわけですが…
それでも薫を愛し続けると浩介が誓うその最中で、
ふと正気を取り戻した薫は、浩介に手紙を書き残して家を出て行く。
これねー、こういう瞬間、認知症にはあるんだよねー。
うちのばーちゃんもそうでした。
まぁ老人だから程度が違うかもしれないけど、全然会話にならなかったのに突然話が通じたりした。
たぶん、薫のこの例もそういうことなんでしょう。
薫の父親から離婚届が送られてもそれに判を押すことはなく、
浩介は、ずっと薫に伝えていないことがあって、
それをなんとしても薫に伝えなきゃいけないと思っている。
行方のわからない薫から届いた1通の手紙。
それはまた、正気に戻った瞬間にしたためられたもの。
施設の人が、その手紙を見つけて投函してくれたそう。
消印を頼りに、熱海の施設で再会。
でも、薫は「初めまして」という言葉を浩介に返す…
薫の記憶から浩介が消えていることに、
そして、入所当時は部屋に飾ってあった浩介の写真や絵も、
薫本人が処分してしまったことを聞かされて、また打ちのめされる浩介。
イスの上の愛ちゃんは、手も足も投げ出したようにして座っていて、
スケッチブックを動かす手も弱々しいもの。
この表現、動きのないモノだけど、なぜかすごく惹かれます。
発症前はデザインの仕事をしていただけに絵が得意だった薫も、
今や幼稚な絵を描くだけ…
ところがよく見れば、そのスケッチブックにはどのページにも、
短髪でヒゲを生やした男性の絵… 間違いなく、出会った頃の浩介の絵。
記憶の最後の最後に残っていたのは別の男でも何でもなく、
きちんと、浩介との思い出だった。
そしてこの時に、浩介はずっとずっと言えなかったことを、薫に伝えるのです。
「―――愛してる」
ということであらすじだかレポだかなんだかわかんなくなってしまいました。
カーテンコールの2度目辺りからスタンディングオベーション。
当然ですねw 二人ともそれに値する素晴らしいものでした。
3度目? 辺りでBGMがハッピーバースデーに!w
佐々木君がカートでケーキを運んできて、愛ちゃんはセット上の方でリアルこれ→_| ̄|○
愛ちゃんが佐々木君を叩きに行ってましたwww
観客からも手拍子と合唱で迎えられて、一息でろうそく吹き消して、
天井向いて涙をぐしぐし… って何でそういうところで男っぽくなるのw
何度かのカーテンコールを受けて、二人は晴れやかに舞台から去っていきました。
それにしても朗読劇というモノは初めて見たんですが、
これはもう、当然ながら声を中心にした表現となるので、
最初のうちはどこまで引き込まれていくんだろうと思っていたんですが…
全くの杞憂でした。
いやぁ。二人とも素晴らしい。
とにかくこの話、演者も「泣く」んです。
いろいろな境地に立たされて、涙を流す。
そのシーンに無理なんてありませんでした。
演者の涙に誘われるように客席からもすすり泣き。
愛ちゃんは、そこのところ完全に「女優」ですね。
演じる上で、感情のコントロールが自在に出来る。
涙声で語りかけるところ、自問自答するところ、
涙にプラスして、決して大きくはないけれど与えられる動き。
たとえば、日記を持つ手がぶるぶると震えたり。
声の強弱の点では、さんざん出ている「狂気の迫力」もだけど、
夜中、浩介の机の中身を盗み見するシーンでの小声。
あれって、ただ小声なだけじゃ客席に届かないよね? マイクが拾っても。
小声で、かつ、はっきりと聞こえるような。
それと、病名を宣告された直後…のシーンだったと思う。
セリフなし、動きもほとんどなし、舞台は暗転して愛ちゃんにピンスポット、という場面。
重圧を感じるシーンだった。
セリフによって悲痛さを表すことも出来たとは思う。
でも、ここってあえてセリフもないことで、
のしかかる圧力を表してるのかなぁなんて思ったり。
薫は、「消しゴム」という言葉を忘れます。
「白くて、ゴシゴシするやつ」。
これによって、記憶を消されていくんだと嘆きます。
「薫が忘れても、その分俺が覚える。全部伝える。
全部忘れても、俺がイチからまた教えるから」
もう亡くなったけど、認知症だったばーちゃんと一緒に住んでいた身として、
なんだかいろいろ考えさせられるところのある作品でした。
そして、自分が愛してやまないアイドルグループのリーダーが、
こんなにも素晴らしい演技… いや「表現」を届けてくれたことに、ものすごく感嘆。
素晴らしい舞台をありがとう!